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令和3年度 鍛錬行事を実施しました!!

11月3日(水)、令和3年度鍛錬行事を実施しました。

萩市内から津和野高校までの35.9キロを歩く予定でしたが、残念ながら21キロ地点で雨天中止となりました。コース途中でサポートしてくださった保護者の皆さま、応援してくださった皆さま、ありがとうございました。

 

今回はある3年生の感想文を紹介します。

 

 

朝7:40頃、太陽はまだ山に隠れていて、辺りは少しだけ薄暗かった。

 

その日はいつもより寒くて、着ていた長袖の体操服の上にさらにパーカーを羽織っていた。一人ずつ自分の体温を先生に報告してバスに乗り込んでいく。出発地点までおよそ60分バスに揺られるなかで、去年の鍛錬で歩き見た景色が、一瞬で流れていった。その景色は1年前のたった1日、しかも歩きながら見た景色だったのに、なぜだか鮮明に覚えていて、とても懐かしく感じた。私がこの景色を見るのは今年で最後になる。

 

いよいよ出発地点に到着してバスを降りる。

そこには何人かの先生がいて、そのなかで教頭先生が生徒に向けて出発の合図をした。

「じゃあ、気をつけて歩こう!!

一緒に言うぞ、3,2,1、 えい、えい、おー!!!

 

 

そんな感じで歩き始めてから、私は既に楽しい気持ちでいっぱいで、なぜかただ歩くだけだというのにワクワクした。 それは遠足をする時と同じような気持ちで、例えば、行った先でどんなことが起こるのか、どんなものを見ることができるのか…。そういった”予想外に出会えること”へのワクワクだった。

 

私は先生やサポートをしてくださる保護者の方々に向かって、いつもより元気に挨拶をした。山の中を歩いていると、人と出会うことがないので、なんだか道中人に会うだけでも嬉しく感じたのだ。

 

 

その頃には太陽が山から顔を出していて、すぐに高く空を昇っていった。そのせいか歩いているとだんだんと暑くなって、私はパーカーを脱いでそれを腰に巻いた。

 

いつもならしっかりと見ることもない山々の様子を、歩きながらぼーっと眺める。ああ、もう秋なのだ、と赤く染まった木々や道端に落ちている木の実を見つけてはそう思った。


 

1時間ほど歩いた頃。

 

「あと6km歩けば昼ごはんだよ、頑張って!!」

 

道中に立っていた先生が言った。正直この地点で既に足が痛くなり始めていた。歩くたび息を切らし前へ前へと半強制的に足を進める。自分自身に、止まっては負けだ、と言い聞かせるように、前へ前へ…。その時「頑張れ…!頑張れ…!!僕は長男だ…!!!」という鬼滅の刃の炭治郎のセリフを思い出した。私は長男では無いけど、 鍛錬はそのセリフがピッタリと当てはまる。なぜか自分で自分を応援するみたいに口に出して言いたくなるのだ。「頑張れ…!!頑張れー!!! 」と。

 

6kmということは、だいたい1時間半ほど歩き続けなければいけなかった。想像してみてほしい。歩くたび微妙に痛いと感じる程度で足のつぼを抑えられる感覚、そしてそれが一時間以上続くことを。6kmなんて四捨五入すればほぼ10kmじゃないか、せめて3kmがよかった、なんて心のなかで悪態を付きながら、また歩き続けた。ちょうどその頃だっただろうか、向こう側の空には、灰色の雲が少しずつ広がり始めていた。

 

 

「あと1km先に昼食が待っているよ!!」

 

また道中に立っている先生が言った。

 

「やったー!昼ごはんだ!!」と長時間ひたすら足を進めることにより無心になりかけていた私は声を上げた。
しかしその時には空全体が薄暗い雲で覆われはじめ、どう見ても雨が降りそうな雰囲気だった。濡れたくないからできれば降らないでほしい、せめて昼ごはんまで待ってほしい。そんな気持ちを無視するかのように、小さな雨粒が鼻の上に落ちた。

 

その雨は次第に強くなり、すぐに地面に水溜りを作っていった。靴は濡れるし、髪の毛から水滴が落ちてくる。私は急いで腰に巻いていたパーカーを羽織り、なんとかずぶ濡れになる前に昼食場に着いた。

 

お昼は唐揚げ弁当を食べた。テントの下で寒さを我慢しながら箸をすすめていく。唐揚げ弁当なのになぜか鮭も入っていて、少しだけ得をした気持ちになった。

 

昼ごはんを食べ終わり、今度はかっぱを着て歩き始めた。

 

さっきまでは雨に打たれたことによって少しだけ気が落ちたが、今はもう無敵だ。だってご飯は食べたし、足は休まったし、カッパも着ている。確かに髪の毛も服も少し濡れていたけど、そんなこと気にならなかった。

 

 

それでも結局、足はまたすぐに痛くなり始めたのだが、隣で一緒に歩いている友達と歌を歌いながら歩くと、痛さはすぐに忘れた。

 

「なんか吐息が白くなってる」

 

友達が突然そう言った。わざと宙に向かってはーっと息をはくと、確かに冬でもないのに吐息が白くなっていた。急激に気温が下がったらしい。でも体はカッパで覆われているからか、寒くはなかった。歩いていれば自然と体はあたたまるので、安心して歩いていた。

 

しかし少しすると突然学校のバスがやってきた。バスに乗っていた先生は私達に「バスに乗って」と言った。理由を聞くと、急遽大雨と雷の影響で、鍛錬が中止になったらしい。急いでバスに乗り込んだ。

 

 

なぜかその時 私は鍛錬が始まった時みたいにワクワクした。私は津和野高校まで歩ききるつもりでいたから、途中で中止になるなんて思ってもみなかった。 そもそも私の中の予定では雨なんか降らないはずだったし、ましてや中止になるなんて考えはなかった。イベントが途中で中止になるということは滅多にない。 そう、つまりこれは予想外の出来事だった。その予想外が、 私は上手く言葉で言い表せられないけど、ホントにおもしろいと感じた。

 

 

鍛錬は、普段他人ばかりを気にかけてしまっている人にこそ挑んで欲しい。そういった人は多分、普段自分を大切に出来ていないから。鍛錬は例え友達と歩いていたとしても、途中から無心で歩くようになって、結果自分自身とプラスな方に対話するようになる。普段なら「頑張れ!」という言葉は他人に対して言うもので、自分に対してはあまり言うものでは無い。言ったとしても心からではなく、言い聞かせているか、言ってみるだけ。鍛錬はなんとかゴールまでたどり着きたいという気持ちがあれば、自分自身を心から応援できる。「頑張れ!!頑張れー!!」と。その瞬間だけ、久しぶりに自分と向き合えたというか、自分のために声をかけてあげられることができた。

 

おもしろいし、楽しかったけど、やっぱり途中で中止になってしまって残念。最後の鍛錬でゴールした時の景色はどんなものなのか見たかった。もっと歩きながら流れていく秋の景色を見たかった。そういった悔いは残るけど、それもたった一つの思い出だと思うので、忘れないでいたい。